医師転科ナビ

医師の転科の仕方や進め方をご紹介

総合病院の救急救命医から精神科への転科

私はもともと私立の総合病院の救急科専門医でした。

救急科専門医とは、文字通り救急で運ばれてきた患者さんの全てを見る仕事です。

救急車で運ばれてくる人は、事故で大怪我をした人や、急な心疾患や脳出血など、一刻を争う状態です。

どこが悪いのかもわからないすでに意識のない人もいます。

救急科専門医は、診療科に関係なく診療して、一刻を争うような重症な場合にはその場で救命救急処置や集中治療を施さなければなりません。

本当に医療ドラマのようなバタバタとした毎日でした。

一刻を争うような容体の患者さんと向き合い、その命を救う。(最終的に残念ながら救えないこともありますが…)そんな毎日にとても充実した気持ちがあったのですが、どこかで物足りなさも感じていました。

そして私はあることがきっかけで転科を決意したのです。

救急車で運ばれてくる患者さんは病気や事故だけではありません。

街中で錯乱状態にあった人たちも、通報されてたくさん救急車で運ばれてきます。

わーわー叫び続ける人や、ブツブツ同じ言葉を繰り返す人。固まった蝋人形のように全く動かなくなってしまった人、などなど。

何らかの精神的な疾患により、通報され運ばれてくるのです。

私のいた総合病院には、毎年そのような精神病の患者さんが多く運ばれてきました。

私たち救急科の専門医はそのような精神疾患の患者さんの場合は施す手術も救命措置もないため、すぐに精神科の医師に診断を任せるようにしていました。

ある晩、またいつものように精神疾患の患者さんが救急車で運ばれてきました。

その方は40代の男性で、何やらブツブツと「私だけじゃないんです」「あの人もそうなんです」などと意味不明のことを呟きながら青い顔をして震えていました。

男性は濃紺の仕立てのいいスーツを着て、高級なビジネスバッグ、高級な時計をし、スーツの内ポケットからは司馬遼太郎の小説が出てきました。

どこかで転げ回ったのか、右半身のスーツは少し濡れて汚れていました。私たちはすぐに精神科医に連絡をし、男性は精神科病棟に運ばれて行きました。

私はその日から、その男性のことが気になっていました。きっとインテリジェンスも高く、社会的にも成功していた男性だったのだと思います。

そんな男性をあのような状態にまで追い詰める心の病とはどんなものだろう、と。

毎回事務的に精神科に送っている精神疾患の患者さんについて、またその病気の多様性について、もっと詳しく知りたくなりました。

そして私は精神科に転科することを決心したのです。

転科して5年、いまは精神科医として別の病院で勤務しています。どんな人をも襲う心の病。とても奥が深くまだまだわからないことばかりですが、毎日臨床の現場で鋭意勉強中です。